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東京地方裁判所 昭和37年(ワ)7289号 判決 1963年2月11日

判   決

東京都中央区銀座東六丁目七番地

原告

八幡化学工業株式会社

右代表者代表取締役

中村益雄

右訴訟代理人弁護士

佐久間三弥

上山太左

同都新宿区下落合二丁目九六八番地

被告

太陽食品株式会社

右代表者代表取締役

大竹倉治

右訴訟代理人弁護士

高橋守雄

右当事者間の損害賠償請求事件についてつぎのとおり判決する。

主文

1  被告は、原告に対し七六、三六〇円およびこれに対する昭和三七年七月二六日以降右支払ずみにいたるまでの年五分の金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  この判決は、第一項に限り、仮りに執行することができる。

事実

原告訴訟代理人は、主文第一、二項同旨の判決および仮執行の宣言を求め、その請求原因として、つぎのとおり述べた。

一、訴外越川光彦は、昭和三七年六月二五日午後二時三〇分頃東京都中央区新富町三丁目二番地先道路交叉点の中心点附近でその運転している自動車(3―東―あ―〇九六〇号)を一旦停車していたのに突然後退させたので、築地方面から桜橋方面に進行してきた原告所有自動車(3―せ―一七五六号)に接触せしめるに至つた(別紙図面(一)参照)。

二、右事故に因り原告所有自動車は右側中心部に損傷をうけ、原告は1その修理のため金四三、一〇〇円の修理代の支払を余儀なくされ、2その修理中である昭和三六年六月二九日から同年七月七日まで日本交通株式会社(木挽町営業所)から代車を雇いいれ、料金三三、二六〇円の支払を余儀なくされ、合計七六、三六〇円の損害をうけた。

三、しかして、右事故は、訴外越川光彦が後方の確認をしないで突然後退したために起きたものであつて、同訴外人の過失に基くものであるが、同訴外人は被告会社に自動車運転手として雇われ、その業務に従事中に右事故を起したのであるから、被告は、同訴外人の使用者として右事故によつて原告がうけた前項の損害を賠償すべき義務があるといわなければならない。

四、よつて、原告は、被告に対し右損害の賠償として金七六、三六〇円とこれに対する本件訴状送達の翌日たる昭和三七年七月二六日以降右支払ずみにいたるまでの民法所定の年五分の遅延損害金の支払を求める。

被告訴訟代理人は、「1原告の請求を棄却する2訴訟費用は原告の負担とする」との判決を求め、答弁として、つぎのとおり陳述した。

一、請求原因第一項の事実は認める。同第二項の事実は知らない。

二、請求原因第三項前段(越川運転手の過失)の事実は否認する。訴外越川運転の被告所有車は、本件交叉点で昭和通方面からきて築地方面に右折しようとして一旦停車し、同訴外人において前後左右の安全を確認したところ、桜橋から築地方面に向う都電が近づいてきており、同じ方面に向う自動車が相当あり、被告車の反対方面から進行してきて交叉点に入ろうとする自動車も相当数あつたので、被告車をそのまま所期の方向に進めることは困難と考えられた。そこで越川はむしろ、若干被告車を後退せさるべきものと考え、右都電の通過を容易にするため約五〇センチメートル被告車を後退させた。その後退したところに原告所有自動車が進行してきて被告車の右後部に接触したのである(別紙図面(二)参照)。越川に過失があつたとはいえない。むしろ本件事故は原告車の運転者たる訴外戸川瀟寺要のつぎのような過失にもとづいて生じたものである。

1  原告所有車の運転者は、このような状況下において交叉点内に入るには前後左右に注意し自動車を徐行させなければならないのに、その措置をとらなかつた。

2  交叉点内における自動車の運行は、交叉点外の自動車の運行に優先すべきものである。したがつて、原告所有車の運転者は、既に交叉点にあつた被告車の動きをよく注視して行動すべきであるのにこれを怠つて漫然直進したためにこの事故となつたのである。

請求原因第三項後段(被告会社の業務執行中)の事故であることの事実は認める。

三、故に原告の請求は理由がない。

立証関係≪省略≫

理由

一、請求原因第一項(事故の発生)の事実は当事者間に争がなく請求原因第二項(原告が第一項の事故によつて損害をうけたこと)の事実は、(証拠―省略)によつて認めることができ、反対の証拠はない。

二、つぎに、1原告は本件事故は被告車運転者越川の過失による旨主張するに対し、被告はこれを争い、原告車運転者戸川の過失による旨主張するから判断するに、(証拠―省略)を綜合して考えれば昭和通り方面から東進してきた被告車は、本件現場たる新富町交叉点において築地方面に右折すべく、交叉点内において一瞬停車して諸車の通過を待つたが、車体の前部分がすでに築地方面行都電軌条上に進んでいたのに、築地方面に進行する都電や市場通り方面から西進して都電軌条を横断進行する自動車が若干あつて右折進行を断行することができなかつた折しも、築地方面行都電が進行してきたので、これをやり過すために若干後退したところ、築地方面から桜橋方面に向つてその車体の右側をわずかに都電軌条敷石にかけて進行してきた原告車があつて、その右側中央部車体に被告車の後部左角をうちつけたことおよび越川は被告車の後退にあたつて築地方面から桜橋方面に進行する原告車に対し後退を知らせる格別の措置をとらなかつたことを認めることができる(別紙図面(一)参照)。(中略)このような状態のもとでは、自動車運転者としては都電の進行を抑止してでも速やかに自己の運転車の通過をはかるを相当とすべく、たとえその運転車を後退させるとしても、そのことを原告車等築地方面から桜橋方面に向つて進行する自動車運転者に判らせる警戒措置をとり、衝突接触等の事故の怖れのないことをたしかめたうえでなければすべきでないのに、それをしないで越川光彦が後退させたことは自動車運転者として重大な過失であるといわなければならない。被告は、原告車が避譲の措置をとらなかつたのは過失である旨主張するけれども、被告車の後退は前認定によれば原告車運転者にとつて全く予期しえないことであつて、それは原告車の進行方向左側道路上に駐車する自動車があつたと否とにかかわらないというべきであるから、被告の主張をとることができない。

2 右事故が被告会社の業務執行中に生じたものであることは当事者間に争のないところである。

3 果して然らば被告は原告に対し使用者として被用者たる越川光彦の自動車運転上の過失によつて原告がうけた前認定の損害を賠償すべき義務があるといわなければならない。

三、よつて、被告に対し前記損害七六、三六〇円とこれに対する本件訴状送達の翌日であることの記録上明白な昭和三七年七月二六日以降右支払ずみにいたるまでの民法所定の年五分の遅延損害金の支払を求める原告の請求を正当として認容し、訴訟費用の負担について民訴八九条の規定を、仮執行の宣言について同一九六条一項の規定を適用して主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第二七部

裁判官 小川 善 吉

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